気候変動枠組条約

1991年2月から開始された、政府間交渉会議(INC)での「気候変動枠組条約」の交渉は難航しました。1990年に開催された「第2回気候会議」では、オゾン層の保護に関する交渉を参考に、まず気候変動が深刻な環境問題であることを確認し、その後の協力関係を定める「枠組条約」と、その後の科学的知見や対策技術の進展に合わせて、条約のもとに具体的な義務規定を定める「議定書」を交渉するという2段階の交渉方式が合意されていました。条約も議定書も法的には同格ですが、内容的には枠組条約が原則や方向性を規定する親条約で、議定書は具体的な目標や行動、各国の義務などを定める子条約のような関係になります。EC(現在のEU)は、気候変動問題の緊急性から、「枠組条約」と「議定書」を同時並行で交渉すべきと主張し、アメリカや日本は時間的な制約もあるので、まず「枠組条約」の交渉を先行させるべきだと主張しました。結局、交渉開始からリオでの地球サミットまで1年3か月しかないことから、「枠組条約」の交渉に専念することになりました。

また、ECは条約に「先進国は2000年までに1990年比10%削減」との数値目標や削減スケジュールを定めることを主張し、これに対しアメリカは「枠組条約」の名前のとおり、モニタリングなどの協力などの記載に止め、排出削減義務を盛り込むことに強硬に反対しました。

途上国グループは、気候変動の影響を最も強く受ける島しょ国、気候変動対策によって石油が売れなくなることを懸念する産油国、工業化を進めている中国、インド、ブラジルなどの新興国という利害が対立するグループが存在していました。当時は人口で20%を占めるにすぎない先進国が70%以上のCO2を排出していたこともあり、また途上国はまとまらないと交渉力も弱いことから、「先進国主要責任論」でまとまっていました。

INCでの交渉は、5.5回の会合を経て、1992年5月に「気候変動枠組条約」を採択しました。その内容は以下のとおりです。

究極の目的(2条)
条約は、究極の目的を「危険な人為的干渉を及ぼすことにならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」とし、この「安定化」は、生態系が気候変動に適応し、食糧の生産が脅かされず、経済開発が持続可能な態様で進行することができるような期間内に達成されるべきだとしています。わかりにくい表現ですが、「温室効果ガス濃度を、人類の生存に危険を及ぼさないレベルに止める」ことを目的とするということです。
しかし、「危険なレベル」、「安定化」がどの水準の温室効果ガス濃度を指すのか、何時までに「安定化」を達成すべきかについては記述されていません。これには、1990年8月に発表されたIPCCは第1次評価報告書が、危険でない平均気温の上昇幅や大気中のCO2濃度レベル、必要な排出削減量について言及できていないことが反映しています。

5つの原則(3条)
条約3条は、条約の目的と達成し、実施するにあたって指針とすべき、以下の5つの原則を定めています。
① 衡平の原則及び共通だが差異ある責任
② 発展途上国などの個別のニーズ、特別な事情への考慮
③ 予防原則
④ 持続可能な発展
⑤ 協力的で開放的な国際経済体制に向けての協力
こうした原則を条約に定めることを主張したのは途上国で、アメリカなどは原則の法的性格が明かでないとして反対しました。最終的に途上国の主張がとおり、原則が条約のなかに規定されることになりましたが、これらの原則はあくまで「条約の目的達成と実施のための措置の指針」であることがアメリカの要求で、前文に明記されることになりました。
これらの原則のなかでも、重要なのは①の「共通だが差異ある責任」原則です。
「共通だが差異ある責任」とは、地球温暖化への責任は全世界共通のものではあるが、先進国と途上国との間ではその責任には差があり、先進国側に、より大きな責任がある」というものです。この原則により、OECD*1加盟国と経済移行国*2 が附属書Ⅰ国とされ、それ以外の途上国は非附属書Ⅰ国とされ、さらにOECD加盟国は附属書Ⅱ国とされ、負う義務に差が設けられています。例えば、附属書Ⅰ国は温室効果ガスの排出抑制をすることにより気候変動を緩和する政策と措置ととる義務があり、附属書Ⅱ国は途上国に対する資金供与や技術移転の義務を負うとされています。

削減目標とスケジュール(4条2項)
条約4条2項には、附属書Ⅰ国は、「1990年代の終わりまでにその排出量を従前のレベルに戻す」との記述がありますが、この規定が、附属書Ⅰ国に対し、法的拘束力ある削減目標とスケジュールを規定した条項であるかは、解釈がわかれています。ECなどは、「附属書Ⅰ国に対し、1990年代の終わりまでにその排出量を1990年レベルの排出量に戻す義務」を規定したとしましたが、一般的には法的拘束力ある削減義務を課したものと解釈するのには無理があると理解されています。

また、この条約には2000年以降の排出量についてはまったく書かれていません。

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*1 経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development)。
*2 市場経済への移行の過程にある国。東欧などの旧社会主義国。
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